卒業
夢に井上先生が出てきた。小学校のときの音楽の先生。たしか大学を卒業して先生になったばかりの新米先生だったと記憶している。透き通るような白い肌と茶色がかった瞳、肩まで伸びる髪も少し茶色くて、幼い私には外国の人みたいに見えた。
井上先生と特に強い絆があったわけではないので、なぜ夢に出てきたかは謎である。夢の中で、わたしは何かの卒業を前にした査定面談に望んでいて、その面談の相手が井上先生だったのだ。先生は現実にはもう60代だと思うが、夢の中では40代ということになっていた。
井上先生は面談にアフリカンアメリカンの少女を連れてきていた。わたしの言動が自暴自棄になっていたその少女をインスパイアして、彼女が将来やりたい仕事を決めて、勉強する目的を見出すきっかけになったことを井上先生は高く評価してくれていて、その少女がわたしに直接お礼が言いたいというので連れてきたということだった。
少女が感謝を述べたので、わたしは「わたしとあなたの両方がよろこべることをしたまでである」というようなことを返した。その後、少女が退席し、井上先生と2人になった。
査定の内容の詳細は忘れてしまったが、概ねいい評価で、「よくがんばりました。卒業おめでとう」と言ってもらえた。
それから先生は、言った。「じつは、わたしも卒業するの。やっと赤ちゃんができたの」。
人生それぞれ、余計なお世話だったから言わなかったけれど、わたしは、若くて美しくすてきな井上先生がいつまでも結婚せず子どもも作らずにいるのはもったいないとどこかで思っていたので、その妊娠を本当に心からよろこんだ。そして目が覚めた。

起きたら、3年くらい前に思いついたことで、やってみたくて関係者に連絡を取ってみたけれど、そのときは可能性が低いと保留された案件について、「もしあのときと気持ちが変わっていなければお願いしたいことがあるかも」という連絡が来ていた。
そのことについて、諦めたつもりはないけれど、具体的に動くことは一切していなかった。けれど、知らないうちに、わたしは何かを卒業して、そのことをはじめる準備をちゃんとしていたのかもしれない、と思った。そう考えると、ほんと、毎日、目の前のことを楽しく全力でやる、それでいいのだろうなと改めて思うのだった。