12.10.2019

1年ほど前のことだが、サーフィン帰りにタコスショップに立ち寄ったら、その駐車場に数頭の馬と騎手がいた。いかにもカウボーイ風のおじさまたちで、何かの余興かと思って声をかけたら、自分の馬だそうで、「天気がいいから近所のみんなで散歩に来た」とのことだった。そうしているうちに、おじさんの一人がみんなの分のタコスを買って戻って来て、馬と騎手たちは優雅に道路を歩いて去って行った。
海外に暮らしてよかったことのひとつは、そんな風に、自分の常識をくつがえす物事に容易に出会えることである。もちろん、どこに暮らしていても、その気になれば自分の既成概念や固定観念はいくらでもぶち破れるのだが、その気にならないとなかなか機会がないのだ。その点、異文化の中に飛び込むと、ぼんやりしてその気がないような時でも常識をぶち破るシーンにうっかり出くわすのがいい。
既成概念や固定観念をぶち破るのに必ずしも海外に出る必要はないし、既成概念や固定観念があることは必ずしも悪でもない。けれど、多様な価値観を知っているほど、生きやすくなるとは言える気がする。
日本を離れてみると、日本から来たというだけで同士のよう感じられ、その結果、いろいろな地方の人と知り合いになる。そうして、いろんな地方からきた人と話すようになると、自分が「日本」の常識と思っていたことは、じつは「東京」だけの常識だったと思い知らされることが、けっこうある。いろんな世代の人とも同士のようになるから、範囲はさらに狭まって「あの時代の東京」の常識だったということになる。
いま、この瞬間、自分にとって限りなく普遍的と思える常識でさえ、じつはきっと小さな世界でのものなのだ。そんなちっぽけなものに自分の人生の主導権を与えちゃうのはもったいないよね。