【本】『道行きや』
詩人、伊藤比呂美さんの最新刊『道行きや』が良かった。読んだあとに心をもっていかれてしまった。まるで伊藤さんになったような気持ちになった。もちろん、伊藤さんがどんな気持ちで書いたかはわかりりようがないから、正確にはこの表現は正しくないけれど。でも、人生という旅路を、実際に土地土地を漂流しながら歩いている伊藤さんに自分の姿が重なるようであった。それは私も伊藤さんと同じように日系移民であるからだろうと最初は思った。でも、しばらくして、いや、これははやり伊藤さんのすごさなのだと思うようになった。読み手をぐぐいと言葉で現れているもののずっと奥に引き込んでゆく。その場所、つまり言葉の奥の奥の部分では多くの人が何かしらの共通項を持っている。集合意識的なものかもしれないし、そのへんの専門用語はわからないけれど、とにかく自分のことを題材にして、しかし誰もに通じるような話にしている、そういう点で確かにこれは「エッセイ」ではなく文学なんだと理解した。

「MIss」をそのまま「ミスする」としたり、わたしも常々日本語で直接言い換えるのが難しいと思っている言葉が、そのままカタカナで出てきたり、アメリカの友達の言葉を訳すのも、なんというか、そうそう、わたしもそのように理解していると思えるような、話している英単語がありありと思い浮かぶような訳し方だったりして、そんな細部もさすが詩人であった。