06.24.2020
犬を飼って良かったことはたくさんあるが、そのうちのひとつがご近所さんとの交流が増えたことだろう。交流というとおおげさで、厳密には世間話をする機会が増えたというだけなのだが、サーファー以外の人と話をすることはわたしのこれまでの日常にはあまりなかったので新鮮だ。アメリカの、サンディエゴの、一般的な暮らしぶりを垣間見られている気がするし、何より今さらながらここの住人なのだという実感が増すのがいい。
犬の散歩で必ず会話するうちの一人がマイク。数カ月前からガレージで子ども達となにやらいろいろ作っていた。最初は子ども達と工作を楽しんでいるのかと思っていた。カリフォルニアでは通りすがりに挨拶をすることが普通なので、「今日は何作ってるの?」なんて会話はしていたが、ある日突然、マイクが「じつは俺はこれをビジネスにするんだ」と話しかけてきた。万一、本当に大きなビジネスになったら差し障りがあるので詳細は控えるが、彼のわくわくっぷりはすばらしい。でも、相方とわたしにはそのビジネスがとても成功するとは思えない(笑)。
しかし、毎日、少しずつ話をしていくうちに、そもそもマイクはこれまでもたくさんのビジネスを自分で立ち上げてきた人であることがわかった。いろいろやったが、ひとつ当たったのがあって、それでいま暮らしている。そのことを知って、わたしは「あんなビジネス、成功すると思えない」と思っていた自分を恥じた。成功するとかしないとか、まずやってみなけりゃわからないし、やってみてダメだとなれば死なない程度のところで引き下がればいいだけで、そもそもやってみないことには成功もないのだということをマイクから教えてもらっている気がする。
マイクは「一発当てたい」という気持ちがあからさまである。「世の中に役立つことをするんだ」みたいな高尚さを出そうとしていないところにわたしは好感を持っている。「一発当てたい」が汚らわしいとは思わない。「これをやったらみんな驚くし、楽しいと思うんだ」という子どもみたいな純粋な動機からくる「一発当てたい」である。それはすごく純粋な感情に思う。
それにしても、アメリカ人は(とひとくくりにしてはいけないが)、ビジネスを始めるということに対してとっても大胆で自由だ。その精神はぜひ見習いたい。
仕事柄、ビジネスオーナーに取材することが多いのだが、多くの人が「スタートはガレージだった」と言う。サンディエゴで人気のクラフトビールも、その多くは誰かの家のホームブリューイングから始まっている(日本と違ってお酒の醸造が違法じゃないからだけど)。ガレージで始まったといえば、確か、スティーブン・ジョブスのアップルもそうですね。
マイクもまた、いまのビジネスが成功したら、「スタートはガレージだった」と言うのだろう。成功すると思えないけど(しつこいか)。でも、「Fay、君は日本語ができるんだね!? しかもライターなのか! 俺は日本にもこれを売りたい!」と、50代のいい大人が瞳をきらきらさせて話しているのに刺激を受けて、手伝えることがあったら手伝うよ、と思わされている。恐るべしマイク。