【本】『キッチンで読むビジネスのはなし 11人の社長に聞いた仕事とお金のこと

日本のAmazon.co.jpには海外のクレジットカードを登録できるようになっているので、結局これまでと変わらないくらいの頻度で本(Kindle版)を買って読んでいる。今回紹介するのは、雑誌「暮らしのおへそ」を手がけていることでおなじみのライター、編集者、一田憲子さんの本。タイトルそのまま、11人の社長にビジネスについて話を聞いてまとめられている。
暮らしをテーマに活動されている一田さんが選んだ11人なので、話を聞いたオーナーたちが、雑貨や服飾、物づくりといったジャンルに偏っていることは否めない。一田さんの色が(いい意味で)出ていて、いわゆるビジネスのハウツー本には全然なっていない。しかし、わたしにはそここそがとても良くて、あっというまに読み終えた。感想は簡単に言葉にできないのだけど、逆にいうと簡単にまとめられないくらい、わたしはたくさんこの本からなにかを吸収しているといえる。
今いえることをいくつか。まず、11人いれば11人のビジネスのやり方があるんだなってこと。ただ、みなが大事にしていることは結構共通していた。あえてわかりやすい言葉にするとしたら「自分が楽しんでいることと、人を楽しますこと、両方が大事」ということ。あと、「とにかく行動する」。人に話を聞いたり、人の得意を引き出したり、「人の縁」をいかす力。こう並べてみると、まあ、よく聞く、基本的なこと。けれど、11人にインタビューしているので、それらの大事な要素を実際にはどういうやり方で実践しているのか、人によって違うってことを知られたのが良かった。たとえば人に喜んでもらえるか、という点について、自分の内側を掘り下げていく人もいれば、家族の話を大事にする人もいれば、調査しまくる人もいる、という感じ。やり方はそれぞれ違っていい。もっと言えば、この人たちはそれらが大事だからという理屈が先にあってやっているわけではなくて、試行錯誤する中で感覚的に実践しているような気もした。行動して、反響を見て、調整して、の繰り返し。その過程こそがビジネスってことでいいのだ。
わたしは自分がライター、編集者なので、一田さんのまとめ方にも感服してしまった。この方の話のキモはここだと、彼女が感じたところを中心に一人一人の話をまとめているからとてもわかりやすいし、その人がどんな方か全然知らないのに、どんな声でどんなトーンで会話が進んだのか、ありありとイメージできるような手触りが文章にある。また、話を聞いて気づいたことを、日々の暮らしに取り入れるとしたら…と一田さんのアイデアが各インタビューの後に書かれているのも面白かった。
いわゆるビジネス本ではまったくないけれど、女性で、好きなことでビジネスをしてみたい、できればそこそこの売り上げがちゃんとあるビジネスをしたい、とどこかで思っているけど、自分でやったことがないからどうしていいのかわからないという人が、とっかかりとして読むのにとっても良い本と思いました。この本が出たその後から時代は急速に変化しているけれど、人や人の営みの普遍的な、本質的なところは、そう変わらないはず。その普遍的、本質的なほうにフォーカスしている本なので、時代に関係なく学べるところがあるように思います。